残った感覚
事故のあと、しばらくは何も考えられなかった。
あの瞬間の衝撃。
トンネルの中で感じた恐怖。
そして、「無事だった」という安堵。
すべてが混ざり合い、
気持ちの整理が追いつかなかった。
時間が経つにつれて、
少しずつ落ち着いてきた。
けれど、ひとつだけ強く残った感覚があった。
「当たり前は、当たり前じゃない」
あの日、ほんの少し状況が違っていたら。
そう考えると、今こうして普通に過ごせていること自体が、
特別なことのように感じられた。
それまでの私は、
どこかで「まだ大丈夫」と思っていた。
まだ時間はある。
まだ先でもいい。
そうやって、
自分の中の気持ちを後回しにしていた。
けれど事故を経験してから、
その考え方は変わった。
空き家へ向かった理由
「やりたいことを、やれるうちにやる」
その気持ちが、はっきりとした形になった。
迷いが消えたわけではない。
不安がなくなったわけでもない。
それでも、
心の中の優先順位が変わった。
事故のあと、
私が自然と向かったのは、あの空き家だった。
初めて見たときに感じた、あの空気。
静かで、ゆっくりと時間が流れる場所。
あのときはまだ、
「いい場所だな」と思うだけだった。
けれど今は違った。
同じ景色なのに、
感じ方がまったく違っていた。
ここで過ごす時間は、
ただの趣味ではなくなる。
「これからの自分の時間」
そう思えるようになっていた。
前に進むと決めた日
まずは、できることから始めた。
庭に出て、伸びた草を少し刈る。
室内の窓を開けて、風を通す。
それだけのことだったが、
確実に一歩進んでいる感覚があった。
以前の私は、
「正しいかどうか」で物事を考えていた。
安定しているか。
失敗しないか。
けれど今は違う。
「後悔しないかどうか」
それが判断の基準になっていた。
空き家にいると、
不思議と気持ちが落ち着いた。
何かが整っているわけではない。
むしろ、やることはたくさんある。
それでも、
ここにいる時間は心地よかった。
事故と空き家。
一見すると、関係のない出来事のように思える。
けれど私の中では、
確かにつながっていた。
事故があったからこそ、
この場所に向かう気持ちが強くなった。
ここから、少しずつ形にしていく。
掃除をして、整えて、育てていく。
大きなことはできないかもしれない。
それでも、自分のペースで進めていく。
あの日の出来事があったからこそ、
私は前に進むことを選んだ。
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