第21話|父が残した椎茸

📖 Ep3|畑づくり

ある日曜のことだった。
母と実家の椎茸栽培をしている山に行った。

山に残っていたもの

父は釣りが好きだった。
けれど、山のこともよく知っていた。

冬になると、クヌギを切り、
ドリルで穴を開け、
椎茸のコマを打ち込んでいた。

その姿を、子どものころ何度か見たことがある。

丸太を並べ、
等間隔に穴を開け、
木槌でコマを打つ。

単純な作業を、父はいつも黙々と続けていた。


原木のまま残っていた時間

山に着くと、
父が組んだ原木がそのまま残っていた。

少し傾いたほだ木。
井桁にきれいに組まれた丸太。

年月が経っているのに、
父の仕事の跡は、崩れずにそこにあった。

原木を見ると、
茶色い椎茸がいくつも顔を出していた。

肉厚で、しっかりとした傘。

母が「出てるね」と言い、
治療中の母に代わり、私が静かに摘み取っていく。

籠は、すぐにいっぱいになった。


人の時間と、山の時間

父はもういない。

それでも、椎茸はこうして出てくる。

山の時間は、人の時間とは違うのだと思った。

数年前、椎茸の原木を仕込んでいたときの様子 母と手伝いに行った主人の写真

原木に触れると、
苔がつき、しっとりとしていた。

それでも椎茸は、しっかりと育っている。

父がこの木を切ったのは、何年も前の冬だ。

あのとき打ち込んだコマが、
今こうして実っている。

山の中で原木を眺めていると、
父の姿が浮かんできた。

丸太を切り、穴を開け、
黙々とコマを打っていた姿。

「椎茸は、すぐには出ないんだ」
そんなことを言っていた気がする。

木を切ってから、
椎茸が出るまでには時間がかかる。
だから毎年、少しずつ仕込むのだと。

すぐに結果は出ない。
それでも、続ける。


つないでいくもの

山から戻るとき、
原木の横に道具が置いてあった。

ドリル。
木槌。
コマ打ちの道具。

父が使っていたものが、そのまま残っていた。

それを見て、ふと思った。
今年の冬、
自分も少しだけ椎茸を仕込んでみようかと。

本格的でなくていい。
ほんの少しでいい。

父がやっていたように、
静かにコマを打ってみたいと思った。

椎茸は、すぐには出ない。

木を切り、コマを打ち、
何年か待つ。

時間のかかるものだ。

それでも、あの山で
椎茸が出ているのを見たとき、

その時間の流れが、
とてもいいものに思えた。

父が残した原木から椎茸を採り、
その道具を使って、自分もまた仕込む。

そんな暮らしが、
これからあってもいいと思っている。

今までは父が一人で木を切っていたので、私も母も経験はない。
でも、父がやるのをずっと見てきた。

今年の冬、少しだけクヌギを切るつもりだ。

そして父がやっていたように、
静かにコマを打つ。

時間がかかるものほど、
長く残るのかもしれない。


父との思い出について、こちらもご覧ください。
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