第16話|耕す前に、レモンを植えた日

📖 Ep3|畑づくり

本当は、畑をきちんと耕してから植えるつもりだった。
ミニ耕うん機を入れ、土をふかふかにして、作物が育つ土を作る。
順番としては、それが正しいのかもしれない。

けれど、ホームセンターでレモンの苗木を見つけたとき、足が止まった。

主人はレモンが好きだ。

唐揚げにも、焼き魚にも、炭酸水にも。
何にでも搾る。

薄くスライスして塩をまぶし、皮ごと食べるのが特に好きだ。

ただ一つ、気にしていたことがある。
「海外産は、防腐剤や残留農薬が気になるんだよな。皮まで安心して食べられない。」
以前、何気なく言ったその言葉を思い出した。

それなら、自分で育てればいい。
空き家の畑には、安心して皮まで使えるレモン植える十分な広さがある。

その瞬間、この場所で最初に植える木は決まった。

まず植えたのは、4本のレモン

調べてみると、レモンは品種によって特徴が違う。
寒さに比較的強い「リスボン」と、実付きのよい「ユーレカ」。
私はそれぞれ2本ずつ、合計4本の苗木を選んだ。

まだ畑は整っていない。
それなのに、いきなりレモンを4本。
衝動的過ぎて、あまりにも無計画な行動に自分でも少しおかしかった。

主人が安心して食べられるレモンを育てたい。
それが、この場所で最初にやりたいことだった。

畑はまだ途中段階。
草は刈ったが、土は固いまま。
それでも植えた。

日当たりのよい場所を選び、スコップを入れる。
すぐ石に当たる。
根も残っている。
なかなか深く掘れない。

「やっぱり先に耕うん機だったか」
一瞬そう思った。

それでも掘る。
深く、広く。
腐葉土と堆肥を混ぜ、水をたっぷり入れる。
苗をそっと置き、土を戻す。

4本植え終わったとき、胸の奥がじんわり温かくなった。

荒れた畑に、小さな未来が立っていた。

準備よりも想いを選んだ日

レモンはすぐには実らない。
早くても数年。
剪定も必要だし、虫もつくだろう。

それでもいい。

この空き家も、私の第二の人生も、すぐに結果が出るものではない。
時間をかけて育てるものだ。

「安心して食べられるものを、自分で育てる」

それは、私がこれから選ぶ生き方そのものだった。
肩書きを手放し、自分の手で暮らしをつくる。
その象徴が、この4本の苗だ。

夕方、主人に写真を送った。
「レモン、植えたよ」
少しして返信が来た。

「ほんと? 楽しみだな。」
その短い一文が、妙にうれしかった。

畑はまだ完成していない。
家の中も、直すところだらけ。
それでも、レモンはもう植えた。

整ってから始めるのではない。
始めながら整えていく。

耕すよりも先に、レモンを植えた日。
それは、準備よりも想いを選んだ日だった。

いつか黄色い実がなったとき、主人がそのレモンを搾る日が来たら。
きっと今日のことを思い出す。
固い土にスコップを入れ、小さな苗に水をやった、あの時間を。

1年後、レモンの成長過程をご報告します。
レモンの育て方や、植えたあとにやったことは、こちらにまとめています。

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