活動の拠点として
自宅はすでにある。
だから、この空き家は「住むため」ではない。
私にとってこの場所は、
これからの人生を動かしていくための「活動の拠点」だった。
53歳で会社を辞めると決めた私にとって、
この家は単なる不動産ではない。
これからの人生をどう使うのか。
その問いに対する、はじめての具体的な答えだった。
空き家との出会い

その日、私は時間を持て余していた。
なんとなくスマートフォンを開き、
趣味の釣りができそうな場所をイメージしながら、不動産情報を眺めていた。
もちろん、買うつもりはなかった。
ただ、海の近くに住めたらいいなという、憧れのような気持ちだった。
そんな中、ひとつの物件に目が止まった。
海まで歩いて行ける距離。
そして、目を疑うような価格。
40万円。
思わず、何度も見返した。
場所、坪数、間取り、写真。
気になるところを隅々まで確認する。
「これは一度見てみたい」
気がつけば、仲介業者に電話をしていた。
内覧の日

晴れた空の下、築50年の小さな平屋の前に立った。
海までは徒歩圏内。
庭付き、畑付き。
そして、40万円。
正直、もっと傷んでいると思っていた。
けれど中に入ると、
古さはあるものの、思っていたより状態は悪くなかった。
カーペットは劣化し、
天井や壁紙は昭和を感じる柄。
水回りも、補修や交換は必要だろう。
それでも、崩れているわけではない。
致命的な問題はなさそうだった。
「これなら、使えるかもしれない」
業者に丸ごと任せる家ではない。
自分の手で少しずつ直していく。
そんな距離感が、ちょうどよく感じた。
実際の内覧動画はこちらです。
写真では伝わらない雰囲気があります。ぜひ動画でもご覧ください。
それと、実はこの場所は父と最後に釣りをした堤防の近くだった。
旅行中の偶然見つけた堤防での釣りだったので、近くを通るまで気付かなかった。
※このときの父との最後の釣りについては、番外編「父と最後の釣り」にまとめました。
今まで住んだことがない土地だが、縁を感じた。
庭と畑を見たとき

外に出て、庭と畑を見た。
草は伸び放題。
土は固く締まり、長く手入れされていないのが分かる。
けれど、不思議と落胆はしなかった。
むしろ、その逆だった。
空っぽの家。
荒れた畑。
その光景を見た瞬間、
やるべきことが、はっきりと浮かんできた。
まずは掃除をする。
不要なものを片付けて、風を通す。
畑は土を起こし、小さな区画を作る。
少しずつ形にしていく。
そして、その過程を記録する。
動画を撮り、ブログに残していく。
ここで、自分の活動を始める。
ぼんやりしていた未来が、
このとき初めて、はっきりとした形を持った。
決断の瞬間
「ここにしよう」
大きな決断のはずだった。
それでも、迷いはほとんどなかった。
内覧したその日に購入を決意し、
翌週には契約を交わしていた。
40万円。
退職後の収入を考えれば、
決して軽い金額ではない。
それでも、この場所には、
それ以上の価値があると感じていた。
鍵を受け取った日
契約後、初めて鍵を受け取った日。
小さな鍵を手にしたとき、
胸の奥が静かに熱くなった。
扉を開けると、
ひんやりとした空気が流れ出てくる。
少し埃っぽく、木の匂いが混ざった、
どこか懐かしい香りだった。
室内は空っぽだった。
家具もなく、生活感もない。
それでも、その「何もない」感じが、
かえって心地よかった。
ゼロから始められる。
余計なものがないからこそ、
自分の色に染めていける。
外に出て、庭を眺めた。
草に覆われた畑が、
まるで挑戦状のように見えた。
不安と、それでも残る感覚
不安がないわけではなかった。
本当にうまくいくのか。
収入はどうなるのか。
体力は続くのか。
それでも、不思議と後悔はなかった。
それよりも、
「ようやく動き出せる」
その感覚のほうが、ずっと強かった。
はじまりの場所
会社員としての30数年は、
安定と引き換えに、時間を差し出してきた日々だった。
これからは、自分の時間を自分で使う。
その象徴が、この40万円の空き家だ。
小さな平屋。
荒れた畑。
けれど、私にとっては、
第二の人生のスタートラインだった。
やるべきことは、もう見えている。
掃除をして、畑を耕し、
少しずつ直しながら、この場所を育てていく。
そして、その過程を発信する。
収入に頼らない生き方を、
ここから試してみる。
鍵を握りしめながら、私は思った。
「これから、自分いろの暮らしを作っていこう」
辞めると決意したあとに出会ったこの空き家。
この場所が、
私に新しい生きがいを与えてくれた。
会社を辞めるまでの半年間、
休日を使って、少しずつこの場所を整えていくことになる。
40万円の空き家ですが、実際にかかった費用についてこちらに詳しく書いています。

コメント