第15話|明日私は35年勤めた公務員を辞めます

退職までの半年間

夜になると、急に現実味を帯びてきた。

明日、私は会社を辞める。

何度も決意したはずなのに、
胸の奥がじんわりと熱くなる。

私は高校を卒業して、すぐに働き始めた。

田舎から上京してきた18歳の私は、何も知らなかった。
世間の厳しさも、仕事の責任も、
社会の仕組みも。

電話口で声が震えた日。
叱られて悔しくて、トイレで泣いた日。
帰り道、涙が止まらなかった夜。

それでも翌朝には、
何事もなかったように出勤した。

働き始めて数年後、叱られてばかりで自信を失い、
同郷の友人に辞めたいと漏らしたことがある。

友人はPCエンジニアの仕事に就職し、当時、2,000年問題で仕事が少なく、
給料もまともに出ない状態だった。

なぜ、辞めないのか、と聞くと、
自分で選んだ会社だから、自分の履歴として堂々と言えるくらい仕事を覚えてから
じゃないと辞めれない
、と言った。

当時の私はつらい毎日から逃げることばかり考えていた。
友人の言葉が私の胸に突き刺さった。

私も、仕事を覚えるまで頑張ろう。

あれから35年。
もう、辞めても大丈夫と思えるまで、35年かかった。

長いようで、振り返ると一瞬のようでもある。

思い出が、波のように押し寄せる。

初めて任された仕事。
夜遅くまで残業した日々。
うまくいかなくて自信をなくしたこと。
それでも「頑張ったね」と言われた瞬間の救い。

単身赴任中、家のことを一人で担ってくれた夫。
仕事に没頭していた私を、
何も言わず支えてくれた。

あの頃の私は必死だった。
でも、年を重ねるごとに、自分の人生に対する不安が増していった。
35年間、私は“公務員の私”として生きてきた。

頑張ることが当たり前だった。
弱音を吐かないことが強さだと思っていた。
そして、24時間公務員という意識で慎重に生きてきた。

今日眠って、明日辞令を受けたら本当に終わり。

寂しさもある。
不安もある。
不安は退職を決意してからの半年間、消えることはなかった。

でも、それ以上に込み上げてくるのは――

「よくここまで続けたね」
という、自分へ思いだった。

社会は厳しかった。
でも、たくさんのことを教えてくれた。

礼儀。
責任。
人との距離感。
踏ん張る力。

私はここで、大人になった。

布団の中で今までのことを思い出していた。
明日の退職が嘘のような、他人事のような、

そんな不思議な感覚だ。
長年の日常が変わる節目だけれど、私自身はずっと生きていく。
変わるということがどういうことなのか、いまだに実感が湧いてこない。

色んな思い出に浸っていると、目に涙が浮かんできた。

悲しいのではない。
終わるから、泣けるのだと思う。

全力で生きてきた証だから。

明日、最後の出勤をする。

自分で選んだ選択だから、笑って終わりたい。
でも心の奥では、
18歳の私がそっと言うだろう。

「ありがとう」

35年間、本当にお世話になりました。
ありがとう。

そして――
明日、新しい一歩を踏み出す。

退職日の様子はnoteに書きました。
退職日前日の気持ちとはうらはらに、かなり戸惑ってしまいました。
最後の日は、支えてくれた家族、職場の皆様への感謝の日でした。
是非ご覧ください。

35年間勤めた職場を卒業した日|そよ|50代からの新しい暮らし
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退職を決意した理由はこちらをご覧ください。

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